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絶望書店主人推薦本
●女の子向け

 
『炎の女 伊藤野枝伝』

岩崎呉夫 昭38年初版 七曜社 カバー痛み 2000円
伊藤野枝の28年間の無茶苦茶な人生も凄いけど、それ以上にこれは本として実に良くできている。とくにラストは胸締め附けられる!!女子読むべし!!


●男の子向け

 
『ニューヨーク武芸帳』

坂本正治 昭51年初版 中央公論社 並上、少カバー痛み、帯 2000円
坂本正治の痛快本!!前途渺茫たる学生さんには殊に強く推奨いたします。男子読むべし!!売切れました。


●言葉に戯れたい人向け

 
「そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります」
三島由紀夫『小説家の休暇』『裸体と衣裳』をも越える多彩なる思索日記。うねうねとたゆたう独特の文体もたまりませんです。



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2003/2/26  パルナスのメディア戦略

 パルナスの話題に釣られてあちこちで隠れ関西人が蠢き出したようである。関西人かどうかを判定するにはパルナスの歌を歌わせてみればいいとは昔から云われていたことだが、まさしくそのようになっておる。
 関西にはもっと有名なお菓子屋が数多くあるのになにゆえパルナスだけが特別な存在になっているかと云うと、強烈なるコマーシャルの力がすべてである。
 パルナスのコマーシャルは昭和想い出博物館で観ることができるが、あたしの記憶に刻まれているのはもっと陰鬱で恐怖心さえ覚えるものであった。
 その雰囲気を感じ取るには、パルナス非公式ホームページに作詞作曲の方の許可を取って公開されているパルナスの歌(完全版mp3)を聴くほうがよいだろう。とくに最後のインストルメンタル部分の無意味なまでの物悲しさは、当時の子供たちが受けたインパクトを訪佛とさせてくれる。
 これは何十年も前のものだからではなく当時すでに古臭く何故か懐かしい感じを与える歌だった。映像も当時すでに古臭くパルナス坊やもいまウェブ上で観ることのできるものよりもっと汚い乞食のような恰好で、これでお菓子の宣伝になるのだろうかとあたしは不思議だった。
 たっぷり1分間もある泣きたくなるような陰鬱コマーシャルを毎週観せられて、日曜の朝はいつもどんよりと悲しい想いとともにはじまっていた。
 いま初めて聴く非関西人の諸氏もけっこう胸に来るものがあるのではないかと想う。

 今回いろいろ情報を集めてみたが、パルナスのお菓子はかなり不味かったらしい。あたしは一度も喰った記憶がないので何とも云えんのだが。
 関西人をして不味いものに金を出させるのはエスキモーに冷蔵庫を買わせるよりも遥かに難しい。CMを含めた特異なるイメージ戦略だけで不可能事を実現させていたわけだ。
 そもそも、冷戦下に「モスクワの味」なんていう謳い文句で訳の判らん名前のロシア風お菓子をモロゾフの如くの帝政ロシアからの伝統もなく売り出しただけでも凄いが、ロシアに憧れて戦後にそういう商売を想い付いただけではなく、キャッチフレーズもキャラクターも歌もコマーシャルもすべて創業者自らがプロデュースしていたらしいから大したもんだ。しかも経営が苦しくなると何年間にも渡って計画通り順調に縮小させて借金を残さないまま店を閉めたとのことで、何から何までひとりで完璧にコントロールしてしまっている。廃業したとき関西では新聞の一面に大きく載ったらしいが、関西以外には露ほどにも情報が流れず漂泊の関西人たちがいまごろ驚いていることもコントロールの完璧さを物語る。
 <摺物>について述べたような自分の想い通りの構築をテレビを舞台にしてやったわけだ。ひとりの力でこれほどの完成度をもってやってのけた例をあたしはほかに識らない。

 テレビ時代にもっとも成功した企業はパルナスではないかとあたしは考えている。
 お菓子がほんとに不味かったのならなおさらだが、ウェブ上を見て廻ると案の定あたしと同じく一度も喰ったことのないのにパルナスの消滅にショックを受けている諸氏が数多くいて、メディアの力だけで無から有を生み出してしまっている。毎日食べているようなお菓子はほかにいくらでもあるのに、それらを押し退けて関西人の唯一無二の心のふるさとになってしまっている。
 人々の心に残っているコマーシャルはいくつもあるが、ここまで商品という実体とは関係なく、ここまで強烈に魂に刻まれてしまっている例をあたしはほかに識らない。実体があってそれを伝えるというのではなく、増幅でさえなく、メディアの力のみで現実をねじまげる幻影を屹立させている。メディア本来の遣いこなしだ。

 ちょっと話は飛ぶが昨今は既成の映像や音楽をウェブで流すだの流させないだのという話がよくあるが、ラジオだって誕生当時は既成の音楽をなかなか使えなくてそれまでにないラジオ独自の音楽を自ら生み出していった。テレビだってそれまでにない独自の映像や音楽を自ら生み出していった。ウェブだって独自の表現を自ら生み出すべきであろう。
 すべてをひとりでコントロールしたパルナスの創業者の戦略は大いに学ぶべき点がある。人々の胸奥に深く刻まれたのはテレビのコマーシャルの文法をことごとく踏み外した手法であったことも示唆するものがあるのではないか。テレビコマーシャルという金も掛かって制約も多い枠組みでできたことがウェブでできないはずがない。あれほどの衝撃を与える映像と音楽とメッセージを生み出さねばならぬ。

 パルナス展に行って創業者手造りのピロシキを喰うべきか喰わないでおくべきか、いま真剣に悩んでいる。ほんとに不味くても嫌だし、中途半端に美味くてもなんだし。そもそも、あたしがイメージするパルナスのお菓子はピロシキではなく甘いケーキだからなおさらややこしい。
 やっぱりパルナスはおとぎの国のお菓子のままであるべきか。しかし、創業者は高齢で体調を崩しながらもピロシキを出すことに執念を燃やしておられるらしいし・・・・・。うーむ。
 何十年も謎だった汚いパルナス坊やがロシアの童話の主人公だと初めて識ってなあんだとがっかりしたり、あの歌を歌ってたのが中村メイコと識って驚いたり、パルナスは死してなお、あたくしの心を大海に浮かぶ小舟の如くに搖さぶり続けている。



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