絶望書店日記

本を買うなら
絶望書店

メールアドレス
zetu●zetubou.com
●を@にして送信してください

絶望書店日記を検索


絶望書店主人推薦本
 
『戦前の少年犯罪』
戦前は小学生の人殺しや、少年の親殺し、動機の不可解な異常犯罪が続発していた。
なぜ、あの時代に教育勅語と修身が必要だったのか?戦前の道徳崩壊の凄まじさが膨大な実証データによって明らかにされる。
学者もジャーナリストも政治家も、真実を知らずに妄想の教育論、でたらめな日本論を語っていた!

『戦前の少年犯罪』 目次
1.戦前は小学生が人を殺す時代
2.戦前は脳の壊れた異常犯罪の時代
3.戦前は親殺しの時代
4.戦前は老人殺しの時代
5.戦前は主殺しの時代
6.戦前はいじめの時代
7.戦前は桃色交遊の時代
8.戦前は幼女レイプ殺人事件の時代
9.戦前は体罰禁止の時代
10.戦前は教師を殴る時代
11.戦前はニートの時代
12.戦前は女学生最強の時代
13.戦前はキレやすい少年の時代
14.戦前は心中ブームの時代
15.戦前は教師が犯罪を重ねる時代
16.戦前は旧制高校生という史上最低の若者たちの時代



二階堂有希子だったのか!!!?ショップ



フィード
 rss2.0


過去
最近記事
カテゴリー










2002/1/1  ガス人間第二号

 阿佐ヶ谷ラピュタで円谷英二特集をやっておりまして、あたしはゴジラ物以外の特撮映画は子供の頃テレビで観ただけでビデオでさえ観てないので、きちんと観るのはじつは今回が初めてだったりします。
 『マタンゴ』はやっぱり奧深くも怖かったし、『妖星ゴラス』はやっぱり莫迦莫迦しくも壮大だったし、『宇宙大戦争』のパラボラはやっぱり美しかった。子供の頃のイメージが壊されないどころかさらに大きく膨らませることができるとは、作品の力強さを再認識いたします。
 ちなみにあたしくは細身好みではなくデブ専ですので、ロケットやドリルではなく断然!丸まっちいパラボラであります。男ならパラボラ!それも『地球防衛軍』の<マーカライト・ファープ>のように細長い脚がついてるのは邪道でありまして、『宇宙大戦争』の如く大根脚でしっかと大地を踏んまえたパラボラであります。男なら絶対パラボラ!!
 昔は正月といえばこの手の映画をテレビで観るための日という感じでしたが、最近やらなくなったのはけしからんことであります。子供の頃に『マタンゴ』でトラウマを形成することは大事なことなのですが。

 まあ、そんなことで存分に堪能していたのですが、去年最後に観た『ガス人間第一号』の純愛には號泣いたしました。こんな美しくも素晴らしい作品だったのか!
 純愛物の最高傑作は三島由紀夫の小説『春の雪』だとあたしはこれまで想っていたのですが、これは完璧に越えておるではないか!!
 ウェブ上では「第二号がいないのになんで第一号なの」というツッコミが多いですが、あたしはヒロインの八千草薫がガス人間第二号、いやむしろ彼女こそが本物のガス人間であってガス人間と称する男は第二号に過ぎないよという意図のもとに構成された物語であると視ています。
 やっばり無理があるか?いや、そうではあるまい。
 以下の異端の解釋を読む前に、純愛好きなら『ガス人間第一号』を必ず観るように。

 この作品は大胆な省略法を採用することによって成功しており、住む世界のまったく違うふたりがどうやって恋人となったのか、名門で踊りも名手であるはずなのにこの流派がなにゆえ没落したのかよく判らんようになっている。なにより、八千草薫がなにを考えいるのかまったく判らない。
 己のすべてどころか世界のすべてを捧げようとしているガス人間の純愛に対して、同じく愛情を持ってるのか単なる道具と想っているのか、自分のために爲される兇惡犯罪についてどう想っているのか、舞踊に執拗にこだわるのは芸術上のことなのか名門の意地に過ぎないのか一切合切なんにも判らない。
 名門の日本舞踊の女の家元なのに長唄で能を舞う松葉目物、それも新作をわざわざやるという話なのは、美女と般若のふたつの能面を交互につけさせるためなんだろうけど、八千草薫はそんなよくある女の二面性の怖さを遙かに凌ぐ複雑な造形をされている。むしろ感情のまったくない気体と云っていいほどの透明な存在ゆえにあらゆる情念を内包しているように感じられる。
 何事にも無関心に見える彼女が唯一執念を燃やす舞『情鬼』は「蒸気」と掛けているのだろうし、貌を白塗りにしているのも「蒸気」と化してしまったことを象徴しているのだろう。
 そして、最後に劇場に充滿したガスに点火することによって自らほんとに気化し、ガス人間と一体化する。ここで彼女の芸術と愛情は完結する!三島由紀夫にも通ずる見事なる物語構成だ!
 婦人記者が「女として」舞踊を取りやめるように説得するが、無反応のまま八千草薫は強行する。その上に点火装置を切ったのはおそらくガス人間ではなく彼女で、最後まで舞い終わったあとに自ら点火することによって、芸術家としても女としてもすべてを、絶対の美を手に入れるのだ!
 客のまったくいないがらんとした劇場でただひとり満足気に理想の女の舞を見詰めるガス人間と、屈辱的な状況でも凛として舞い続ける美しすぎる八千草薫!なんと素晴らしい完璧なる構図!
 この物語で眞の絶望者であるのは肉体を欠損してしまった土屋嘉男ではなく八千草薫のほうである。最後、彼女の衣装の切れ端を握り締めながら劇場の外に這い出す土屋嘉男はじつは燃えカスの個体なのであって、眞のガス人間は見事に気化して姿を消してしまった八千草薫のほうなのである。いや、彼女は最初から一貫して気体であったのだ!

 東宝特撮にお馴染みの顔ぶれが並ぶなかでひとり異様な感じさえする配役の八千草薫は、宝塚出身で日舞の心得があるから連れてこられたんだろけど、あれだけの柔らかい美貌なのに底知れぬ冷たさと怖さを同時に併せ持っていてもうこの役に填りまくり。『生きている小平次』でも女の怖さを見せてたけど、最後まで正体を隠したこっちのほうが怖い。こういう役ではよくある細身の冷たい美女ではなく丸まっちいのでパラボラ好きにもたまらん。
 省略の多いこの物語、とくに眞のガス人間・八千草薫を読み解くには劇中舞『情鬼』を読み解かねばならぬであろう。あたしはドラマに引き込まれてしまいこの長唄の歌詞を一言も聴き取れなかった。もうすぐ販売されるDVDを観ても冷静に聞き取れるかどうか自信がない。
 『情鬼』の歌詞が載っている文献があればご教示いただきたい。パンフには解説があるのでしょうか。探偵小説には『情鬼』という作品がいくつかあるけど、なんか関連性はあるのでしょうか。作詞の片山貞一という名は聞いたことないけど、どういう人なんでしょうか。

 もう一度念を押すが、純愛好きの諸氏は必ず『ガス人間第一号』を観なさい。できればスクリーンのほうがよい。
 絶望者であるなら号泣できます。

   4/2 君よ!そこに遺書は遺せたのか!?も参照のこと。