絶望書店日記

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絶望書店主人推薦本
『冤罪と人類 道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』
『冤罪と人類 道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』

冤罪、殺人、戦争、テロ、大恐慌。
すべての悲劇の原因は、人間の正しい心だった!
我が身を捨て、無実の少年を死刑から救おうとした刑事。
彼の遺した一冊の書から、人間の本質へ迫る迷宮に迷い込む!
執筆八年!『戦前の少年犯罪』著者が挑む、21世紀の道徳感情論!
戦時に起こった史上最悪の少年犯罪<浜松九人連続殺人事件>。
解決した名刑事が戦後に犯す<二俣事件>など冤罪の数々。
事件に挑戦する日本初のプロファイラー。
内務省と司法省の暗躍がいま初めて暴かれる!
世界のすべてと人の心、さらには昭和史の裏面をも抉るミステリ・ノンフィクション!

※宮崎哲弥氏が本書について熱く語っています。こちらでお聴きください。



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2000/10/25  <他者>の恐るべき脅威

 bk1に連載されている「無節操。」(第2回)というコラムで山形浩生がbk1に対して苦言を呈しておりまして、しばらくするとbk1編集長という方の回答が同じページに載りました。まあ、読んでみてください。
 bk1というのはなかなか愉快な方々がやっているのだろうとはあのサイトを観ただけでも感じられましたが、まさかここまでとは・・・。いや、驚きました。
 山形浩生さんは『アマゾン・ドット・コム』の解説で「優秀な人材を雇え」なんてのは当たり前で、そんなことが書かれた章なんかも読まなくていいとか云っていますが、明らかに間違っていますぞ。それが当たり前じゃないからこそ、オンライン書店の根幹に関わる欠陥を改善することを「言い出しかね」る「小心で体も弱い」方に編集長なんて重労働を押しつけたり、孫請けに丸投げか、社員だとしてもどんな人が廻されてくるか絶対に予測のしようがない富士通なんて立派な大企業に心臓部を任せたりできるんでしょう。

 bk1の問題点を富士通のせいにするような文章をときどき見掛けますが、これは見当違いもはなはだしい。富士通に限らず大手のシステム開発会社というのは依頼者からお金をいただくことが最終的な目的で、その目的を果たせるだけの仕事はきちんとやっているはずです。たとえ出資企業のひとつだったとしても、この目的は同じです。本を売ることが目標ではないし、買い物客など関係がない、ましてや、本のことを識らないなどと非難するのは筋違いにもほどがある!万が一、ウェブのことを識らないなんてことがあったとしても、まったく問題ではないのです。きちんと支払いのできる依頼者からお金をいただければ、それで目的は100%達成しているのですから。
 出資してでも先例を示しておくと、依頼者は次々やってくる。金払いのいい依頼者は先例がお好きで、その手の暢気な上になんでもいいから新しいことを始めないといけないらしい人々は無限にいますから、まことに賢い計算されたビジネスモデルなのです。べつにズルをしているわけではなく、大手に頼むような依頼者のほんとの要求は契約した段階ですべて満たしているのですから、むしろ最高のサービス会社と云えます。あとからやってくるプログラマーやシステムはオマケで、ダウンさえせずにそれらしく動けば充分なのです。

 メーカーでもなく、特色ある独自の商品を仕入れることもできない、ましてや発送は運送会社に委託するオンライン新刊書店が、唯一の仕事であるシステム構築を<他者>に任せること自体がおかしな話です。この<他者>というのはたんに外部の会社だとかそういう意味ではありません。
 山形浩生は『InterCommunication No.34』で「ネットがあるのだから、アマゾンなどのシステム開発をするプログラマーは現場にいる必要がない」とか云ってますが、これもまったく間違っています。リナックスのように自分ちのパソコン画面で結果が確かめられるソフトと、不定形の極みたる相手のある客商売のシステムは根本的に違います。どうやらこの人はサーバ管理のようなものと考えているようで、大手システム開発会社と同じ発想で客商売を捉えているようです。実際には遥かに複雑なフィードバックをつねに受け続けねばならぬ上に、それは言葉で伝わることでもなく、またそんな悠長な時間もないのです。伝わらない以前に、「言い出しかね」る現場担当者などもおりますし。
 つまり、現場にいるだけではなく、現場担当者そのものでなければならんのです。少なくともシステムがある程度確立するまでのアマゾンはそうしていましたし、観るべきものがあるサイトを持っている日本のオンライン古書店もそうしています。<他者>が介在する余地はないし、自分でやる能力のない人はやめたほうが自分のためです。人に足を引っ張られても大丈夫なくらいのすごい商品なら、なんとかなるかも知れませんが。
 山形という人は「情報技術が導入されても生産性は上がっていない」とかいうことを何故か得意気に云い廻っていて、生産効率の最大の障害である<他者>を同時に導入していることがその要因のひとつであることや、逆にユーザー自身が自分に必要なソフトを創ることがオープンソースの成功要因のひとつであることくらいはいくらなんでも判っているとは想いますが、ひょっとすると判っていないのでしょうか。
 まあ、<他者>の最たるコンサルがこういうことを判っても商売や自分の精神衛生上よろしくないだけかも知れませんが、現場の書店上がりだということが自慢で偉そうな口をきいている方々が判っていないというのはどういうことですかね(bk1編集長という方は元編集者らしいですが、ここの中枢は書店出身や取次)。バーチャル書店というのは、自分の想い通りに制約なく店創りができることが最大の利点でしょうに、ほんとの書店以上に不自由な店にしてどうするの?
 もっとも、<他者>であるコラムニストから指摘されるまであんな欠陥が判らないということは、この方々すべてが本を求める人々や本そのものにとって<他者>なのやも知れませんが。
 現実の書籍流通の問題がウェブにも引きずられているとかいう話がありますが、逆にこんな人々が関わっていたからこそ本の流通システムは歪んでしまったのではありますまいか。違いますか。

 流通だけではなく出版もいまや<他者>の論理だけが支配するようになったため、まともな本が出なくなってしまったのです。誰のためなのかよく判らない本ばかりになってしまったのです。
 本などというのは書いた者が編集して出版して売る、つまり読者の手に届けるのが本来の姿なのです。こんなことも判らない方は出版の歴史でもいちからお勉強しなさい。いまの姿が異様なのです。どう頑張っても機能するはずがないのです。
 なにもひとりでやれという話ではありません。10人で書いて編集して出版して売ってもいいのです。<他者>が介在しなければいいのです。人減らしの話をしているのではありません。たったひとりでも<他者>はすべてをぶち壊してしまえるほどの強力なる力を祕めています。本などという儚いものは、とうてい敵ではありません。
 まったく、コミケだけがまともな本と出逢える場になった由縁ではあります。ロッキング・オンなどもこんなようなやり方をしているそうなんですが。

 えーと、ウェブ店舖の話に戻りますと、勇断をもって徹底的に断行されたローテクと、処女の柔肌の透き通るが如きほどに洗練されたローコストを売りにする絶望書店なんかが、やはりなんと申しましても王道でありますですといった、かようなる結論をここに見るに到るわけです。皆樣方のさっそくの御贊同を賜り感謝いたします。





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